住宅、住宅ローンと離婚に伴う財産分与
最終更新日 2023年1月9日
- 離婚したいが、住宅ローンを分担しなければならないのだろうか・・
- 住宅や住宅ローンがネックとなって、財産分与の話が進まない・・
ここでは、そうしたお悩みついて、「夫が住宅ローンの主債務者、妻が連帯保証人」というよくあるケースを念頭に説明します。
前提知識
離婚の際の住宅ローンの返済、この問題を考える前に、次の2つの知識を確認しておく必要があります。
離婚後の共有はない
1つ目ですが、よく、妻に「住宅ローンを半分負担しろ。」などと主張する夫がいますが、金融機関の了解がない限り、住宅ローンの半分を妻に付け替えることはできないですし、そもそも、赤の他人になるのに住宅や住宅ローンを共有するのもおかしな話です。
ですので、住宅や住宅ローンを離婚する夫婦間で共有するということは通常なく、夫婦いずれかに全部ということになります。
住宅と住宅ローンはセット
2つ目ですが、住宅は妻に、住宅ローンは夫に帰属するというように、住宅と住宅ローンが夫婦の間で別々になることも通常ありません。
なぜなら、住宅に住まない夫が赤の他人になる妻のために住宅ローンを支払いたいとは思わないですし、かりにそのように分与しても、妻は赤の他人となった夫の不払いにより家を手放すことになるリスクにさらされ続けることになるからです。
また、住宅ローンの貸し手である金融機関が納得しない可能性もあります。
ですので、住宅と住宅ローンは、通常、セットでご夫婦のいずれかに帰属することになります。
これら2つの知識を前提としたうえで、夫が住宅ローンの主債務者、妻が住宅ローンの連帯保証人、という典型的なケースで考えてみましょう。
3つの方法
離婚後の住宅の処理については、大きく分けて、
- 夫が住む
- 妻が住む
- 任意売却する
の3つの方法があります。
以下、それぞれ説明します。
夫が住む場合
夫が住む場合は、複雑な問題は生じません。
夫がこれまでどおり主債務者として住宅ローンを返済することになります。
この場合、妻は、通常、赤の他人となる夫の住宅ローンについて連帯保証人を続けたくないと考えますので、夫は、金融機関の了解を得て、夫側の親族の中で新たに資力ある連帯保証人を立てることになります。
ただ、金融機関の了解を得ることができない場合は、妻が連帯保証人として残らざるを得ません。
住宅の正味の価値(住宅の時価-残住宅ローン)がプラスの場合、夫がその価値を丸取りすることになるので、その分、妻が夫の他の財産を分けてもらえることになります。
妻が住む場合
妻が住む場合は、住宅を妻名義に変えるのが原則です。離婚後に夫婦間で貸借等の権利関係を残すのは、新たな紛争の原因となるからです。
さらに、住宅ローンが残っている場合は、住宅ローンも妻に移すのが原則となります。離婚後に妻が住む住宅に関する住宅ローンを夫が負担するいわれはないからです。
ただ、住宅ローンの移転については、金融機関の承諾が必要となります。
金融機関の承諾を得るには、妻の資力や新たに連帯保証人となる人の資力が問題となります。
金融機関の承諾が得られない場合は、住宅や住宅ローンは夫名義のままにしつつ、妻が夫から住宅を借りることになり、通常、賃料を支払うことになります。
この場合、賃料と養育費を合意により相殺し、妻の持ち出しを防ぐことがあります。
ただ、妻が夫に賃料を支払っていても、夫が住宅ローンの支払いを怠れば、住宅の競売や任意売却により住宅を出ていかなければならないというリスクがあります。
任意売却する場合
この場合、(ア)住宅の時価が残住宅ローンを上回っている場合と、(イ)下回っている場合(いわゆるオーバーローンの場合)に分けて考えます。
(ア)時価が残ローンを上回る場合
(ア)の場合は、通常、住宅を売却し、売却代金の一部を住宅ローンの返済に充てるとともに住宅の担保を外し、住宅の登記名義を新所有者に移します。
返済後の売却残代金は、分与の対象となります。
つまり、売却代金で住宅ローンを返済するわけで、連帯保証債務も消滅しますので、返済が問題になることはありません。
(イ)時価が残ローンを下回っている(オーバーローン)の場合
問題は、(イ)の場合です。
よく、「住宅を売って、売却代金を住宅ローンの返済に充て、残った住宅ローンを返し続ければよい。」などと考える人がいますが、それは甘いと言わざるをえません。
金融機関は、通常、住宅ローンが無担保になることを嫌うので、住宅の売却代金で賄いきれなかったローンのために抵当権が残ることになりますが、他人の住宅ローンのために抵当権が残る住宅を購入する人がいないので、このままでは、任意売却ができないことになります。
そこで、任意売却を実現するためには、住宅の売却代金で賄いきれないローンを売却時に返済することが必要となります。
そこで、この資金をご夫婦のいずれが用意するか、という問題が生じます。
こうした場合、いずれか一方が他方より多く差額を提供することがあります。
ただ、後日、他方にその精算を求めても、任意の精算に応じてもらえないおそれがありますので、もめやすいといえます。
夫婦がこうした問題をクリアし、差額を準備できると、住宅の売却と住宅ローンの返済ができ、連帯保証債務も消えることになります。
なお、夫が失業するなど、夫婦の資力が乏しい場合、金融機関が、少しでも住宅ローンを回収できればと、無担保になるのを承知で任意売却を許す場合があります。
住宅や住宅ローンの処理は難しい
以上のとおり、離婚における住宅ローンの返済は、様々なバリエーションがあって難しいため、権利関係の処理を間違えずに行う必要があります。
当事務所は、宅建取引士(従来の宅建主任)の資格を有する弁護士が在籍するとともに、有力な不動産会社様と連携し、住宅ローンの処理について豊富な実績があります。
安心してご相談いただければと思います。